Q40 死亡退職金は相続税課税対象!非課税限度額は?/生前退職金とどちらが得なのか?/弔慰金は非課税?

 最終更新日:2023/05/11 閲覧数:5,476 views

死亡退職金とは、本来亡くなった方に支給されるはずだった退職金を、本人の家族などが受け取る退職金のことです。
退職金のほか、「弔慰金」という名目でもらうケースもあります。

 

この点、生前に支払う退職金は所得税の課税対象となりますが、「死亡退職金」は、相続税の課税対象となります。
ただし、死亡退職金や弔慰金などすべての金額に課税されるわけではありません。
相続税上は、一定の「非課税限度額」が設けられています。
 
今回は、死亡退職金や弔慰金につき、課税される範囲や、非課税限度額につき解説します。

 

1. 死亡退職金には相続税が課税(みなし相続財産)

(1) 所得税は課税されない

生前に支払われる退職金は、本人の退職所得として所得税が課税されます。一方、死亡退職金は、本人ではなく、従業員の遺族に支払われるため、本人には所得税は課税されず、源泉徴収されることもありません。
 

(2) みなし相続財産として相続税課税

死亡退職金は、お亡くなりになった本人ではなく、遺族が勤務先から直接もらうものですので、死亡時点の本人の相続財産ではありません。
しかし、死亡退職金は「死亡」に起因して生じる財産である点で、相続財産と実態が同じであることから、「みなし相続財産」として相続税が課税されます。
ただし、あくまで「相続財産」ではなく、受取人(遺族)固有の権利となるため、遺産分割の対象とはなりません
 

2. 相続財産とみなされる死亡退職金の範囲は?(みなし相続財産)

死亡退職金のうち、相続税が課税されるものは、被相続人に支給されるべきであった退職手当金等で、「死亡後3年以内に支給が確定した退職金」です。

 

(1) 退職手当金等とは?

退職手当金等とは、退職金、功労金の他、退職に起因した小規模企業共済、適格退職年金、確定給付年金等の一時金など含みます(相続税法施行令1条の3)。
名目にかかわらず、実質的に被相続人の退職手当金等として支給される金品を指し、現物で支給された場合も含まれます。ただし、弔慰金等に関しては、限度額を超えた金額が退職手当金となります(後ほど解説します)。

 

(2) 死亡後3年以内に支給が確定した退職金とは?

 ● 死亡退職金で、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に「確定」したもの
 ● 生前に退職し、支給される金額が被相続人の死亡後3年以内に「確定」したもの

 

「確定ベース」の概念であり、「支給日」で決定される概念ではありません(相基通3-30、3-31)。

 

(3) 相続財産とみなされない退職手当金は?

上記(2)を満たさない退職手当金は「みなし相続財産」になりません。以下の通りとなります。
 

死亡前に確定・支給済 所得税課税対象(退職所得) ⇒ 準確定申告の対象
死亡に支給額が確定し、支払が死亡後(未収退職金) 既に労働債権として確定しているため、未収退職金=本来の相続財産として相続税課税対象 ⇒ 遺産分割協議の対象
死亡後3年以内に未確定、その後に遺族が受取 遺族の所得税一時所得となる(所基通34-2)。

 

(4) 相続税申告期限までに退職手当金が確定しない場合

相続税の申告期限までに死亡退職金の金額が確定しなかった場合は、一旦死亡退職金を含めずに相続税申告を行います。その後、死亡退職金が確定したのち、相続税の修正申告を行うこととなります(死亡日から3年以内に支給が確定した場合のみ)。
この場合は、「正当な理由」による修正申告と認められ、延滞税や加算税等のペナルティはありません。

 

3. 相続税の非課税枠

みなし相続財産として課税される「死亡退職金」は、相続税が課税されますが、一定の非課税枠があります。生命保険の非課税枠とは別枠での非課税枠となりますので、併用は可能です。

 

非課税限度額= 500万円×法定相続人の数

 

なお、死亡退職金は、遺族固有の権利ですので、相続放棄した方も受取可能です。
また、非課税枠が認められるのは、「法定相続人」=相続放棄した方も含まれます
ただし、非課税枠が利用できるのは、実際財産を相続する「相続人」のみとなり、相続放棄した方は、上記の非課税枠を利用することはできません。こちらは、Q44で、具体例を用いて解説していますので、ご参照ください。

 

4. 死亡退職金の受取人は?遺産分割協議は必要?

死亡退職金は、「みなし相続財産」となりますが、同じくみなし相続財産となる「死亡保険金」とは異なり、受取人が指定されていない場合があります。この場合の取扱いは以下となります。

 

退職金規定等で受取人が定められている場合 規定に定められた方が受取人。
受取人固有の財産となり、遺産分割協議不要。
退職金規定で定められていない この場合、本来の相続財産ではありませんが、受取人を決定する関係上、一般的には遺産分割協議書で受取人を定めることが多いです。定めがない場合は、相続人全員で取得したと考えます。

死亡退職金の受取人の順番指定は、法定相続人の順位とは考え方が異なります(労働基準法施行規則(42条~45条))

 

5. 弔慰金等の取扱い

弔慰金等とは、従業員等が亡くなった場合に、遺族を慰める趣旨で、その遺族に対して会社から支給するお金です(弔慰金、花輪代、葬祭料等)。弔慰金は、遺族に対するものですので、原則として相続税の課税対象ではありません。弔慰金を受け取った遺族は、所得税・贈与税とも非課税となります(所基通9-23、相基通21の2-9)。
 
しかし、会社から高額の弔慰金が支給される場合まで非課税とすると、退職手当金の取扱いと不公平が生じます。そこで、相続税上、弔慰金にできる金額につき、一定の限度額が設けられています(相基通3-20)。限度額は以下となります。限度額を超えた金額については超えた部分のみ「死亡退職金」と取り扱われます。

 

業務上の死亡の場合
(通勤上の災害含む)
死亡時の普通給与(除く賞与)の3年分相当額まで
上記以外の場合 死亡時の普通給与(除く賞与)の半年分相当額まで

 

● 弔慰金という名目でも、明らかに実質死亡退職金の代わりの内容であれば、弔慰金ではなく、退職手当として課税されます(相基通3-18)。
● 死亡直前に普通給与を受け取っていない場合は、同業他社等と比較して平均的な給与等をもとに算定することも認められます(相基通3-21)。

 

6. 生前退職金と死亡退職金はどちらが得なのか?

生前退職金の場合は、退職所得となり、退職所得控除や1/2できる規定があり、所得税はかなり安くなります。この点からは、生前に退職金をもらった方が得なケースもあります。ただし、生前退職金につき、死亡時までに使い切らない場合は、相続税の課税対象となり、相続税の死亡退職金の非課税枠が利用できない点にも注意が必要です。

 

7. 参照URL

(No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm

(No.4120 弔慰金を受け取ったときの取扱い)

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4120.htm

(被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」の意義)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/01/03.htm#a-3_30

(贈与税の対象とならない弔慰金等)

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/01/05.htm

(死亡による退職の場合(支払調書))

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hotei/8/02.htm

 

8. YouTube

 
YouTubeで分かる「死亡退職金」
 
 

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