Q83 共有名義の貸家にかかる敷地の評価 土地と建物の共有割合が異なる場合

 最終更新日:2023/03/01 閲覧数:10,559 views


 
不動産を、例えば夫婦名義・親子名義など「共有名義」で登記されているケースもあると思います。
この点、土地と建物どちらも共有名義の場合、土地と建物それぞれの共有割合が異なるケースもあります。
こういった共有名義の不動産を相続する場合、相続税の計算は・・非常に「複雑」になります。
 
今回は、「貸家」として利用している場合を前提に、「土地と「建物」が共有名義・かつ、それぞれの共有割合が異なる場合の、相続税上の「土地の評価区分」及び「小規模宅地等の特例」との関係につき、解説します。
 

なお、「自宅」が共有で、かつ、土地と建物の共有割合が異なる場合は、Q84でまとめていますので、そちらもご参照ください。
 

1. 土地と建物の共有割合が「同じ」場合

最初に、土地と建物の共有割合が「同じ」場合を例題で解説します。
 

  • 父が亡くなり、すべて母が相続することになった。
  • 生前、土地・建物とも父と母の共有名義(50%ずつ)で登記されている。
  • 土地建物は、「貸付事業」として利用、小規模宅地等の特例要件は満たす。
  • 土地の全㎡数 100㎡とする。
  • 生前、父と母の間で地代の収受はない(=使用貸借)
  •  

    (1) 「父の建物共有持ち分」の敷地50㎡

    ①土地の評価区分
    「父の共有持ち分」である敷地については、その上に、ご自身で建てた建物があり、かつ、「賃家」として利用していますので、「貸家建付地評価」となります。
     
    貸家建付地の評価は、自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合)となりますので、評価が下がります。
     
    ②小規模宅地等の特例との関係
    当該土地は、被相続人自身が貸付事業として使用していますので、「貸付事業用宅地等の特例」の適用が可能です。

     

    (2) 「母の建物共有持ち分」の敷地50㎡

    母の建物共有持ち分の敷地は、元々母の持分ですので、今回の相続対象外となり、関係ありません。

     

    (3) まとめ

    生前区分 対象 評価区分 小規模宅地等との関係 利用区分
    父共有持ち分の敷地 50㎡ 貸家建付地 貸付事業用宅地等の特例OK 本人利用
    母共有持ち分の敷地 50㎡

     

    2. 土地と建物の共有割合が「異なる」場合 

    続いて、土地と建物の共有割合が「異なる」場合は、どうなるでしょうか?
    被相続人の「土地建物」の共有割合によって、パターンが2つに分かれます。
     

    (1) 被相続人共有土地㎡数 > 被相続人共有建物㎡数 の場合

     

  • 父が亡くなり、すべて母が相続することになった。
  • 生前、土地は、父70%、母30%の共有名義で登記されている。
  • 生前、建物は、父50%、母50%の共有名義で登記されている。
  • 土地建物は「貸付事業」として利用、小規模宅地等の特例要件は満たす。
  • 土地の全㎡数 100㎡とする。
  • 生前、父と母の間で地代の収受はない(=使用貸借)
  •  
    (イメージ図)
    190303Q84_2
     
    【考え方】
    まず、父と母は、それぞれ自分の土地の上に、自分の建物を建築しているものと考えます。
    上記では、父所有建物は、すべて自分所有の土地上に建築されています。
    一方、母所有建物のうち、30%は自分所有の土地上、残りの20%は父所有の土地上に建築されていると考えます。
    以下、上記「イメージ図」に示した「①~③の土地」ごとにまとめます。
     
    ① 父建物共有持ち分の敷地(50㎡)
    父建物共有持ち分の敷地は、すべて父所有の土地となります。
    「貸付事業」で利用していますので、「貸家建付地評価」、「貸付事業用宅地等の特例」の対象となります。
     
    ② 「母建物共有持ち分の敷地(20㎡・土地の所有者父)
    母所有建物下の土地のうち、20㎡は父所有の土地となりますので、当該土地も相続税の課税対象となります(母は所有権を有していない)
    当該土地は、母は所有権を有しておりませんが、家族間のため、母が父から土地を無償で借りて(=使用貸借)、自分の建物を建築していると考えます。
    使用貸借の場合、「借地権はゼロ」で評価しますので、この20㎡の部分については「自用地」評価となります。
     
    また、建物共有登記の場合は、誰がどの部分を所有しているか?の明確な区分はないため、1棟の建物全体が、本人(被相続人)が居住していた建物と取り扱われ、「貸付事業用宅地等の特例」の対象となります。詳しくは、Q27をご参照ください。

     
    ③ 「母建物共有持ち分の敷地(30㎡・土地の所有者母)
    この部分は、母が自分の土地上に自分の建物を建築していると考えます。
    ただし、当該部分は母所有ですので、そもそも今回の相続の対象になりません。
     
    ④ 結論・まとめ
    結論、被相続人共有土地㎡数>共有建物㎡数の場合は、
    父所有土地(70㎡)すべてが「貸付事業宅地等の特例」の対象となります。
     

    生前区分 対象 評価区分 小規模宅地等との関係 利用区分
    父建物共有持ち分の敷地 50㎡ 貸家建付地 貸付事業用宅地等の特例適用OK 本人利用
    母建物共有持ち分の敷地 父所有土地部分 20㎡ 自用地 貸付事業用宅地等の特例適用OK 本人利用
    母所有土地部分 30㎡ 相続対象外

     

    (2) 被相続人共有土地㎡数 < 被相続人共有建物㎡数 の場合

     

  • 父が亡くなり、すべて母が相続することになった。
  • 生前、土地は、父30%、母70%の共有名義で登記されている。
  • 生前、建物は、父50%、母50%の共有名義で登記されている。
  • 土地建物は「貸付事業」として利用、小規模宅地等の特例要件は満たす。
  • 土地の全㎡数 100㎡とする。
  • 生前、父と母の間で地代の収受はない(=使用貸借)
  •  
    (イメージ図)
    190303Q84_3
     

    【考え方】
    上記(1)と同様に、父と母は、それぞれ自分の土地の上に、自分の建物を建築しているものと考えます。
    父所有建物の内、30%は父自身所有の土地上、残りの20%は母所有の土地上に建築されていることになります。
    一方、母所有の建物は、すべて母所有の土地上に建築されていると考えます。
    以下、上記「イメージ図」に示した「①~③の土地」ごとにまとめます。
     
    ① 父建物共有持ち分の敷地(30㎡)
    父建物共有持分の敷地は、すべて父所有の土地となります。
    「貸付事業」で利用していますので、「貸家建付地評価」、「貸付事業用宅地等の特例」の対象となります。
     
    ② 父建物共有持ち分の敷地(20㎡・土地の所有者母)
    父は所有権を有しておりませんが、家族間のため、当該敷地は母から土地を無償で借りて(使用貸借)、自分の建物を建築していると考えます。

    ただし、当該部分は母所有ですので、そもそも今回の相続の対象になりません。

     
    ③ 母建物共有持ち分の敷地(50㎡・土地の所有者母)
    この部分は、母が自分の土地上に自分の建物を建築していると考えます。
    ただし、当該部分は母所有ですので、そもそも今回の相続の対象になりません。
     
    ④ 結論・まとめ
    結論、被相続人共有土地㎡数<共有建物㎡数の場合も、
    被相続人共有土地(30㎡)すべてが「貸付事業用宅地等の特例」の対象となります。

     

    生前区分 対象 評価区分 小規模宅地等との関係 利用区分
    父建物共有持ち分の敷地 父所有土地部分 30㎡ 貸家建付地 貸付事業用宅地等の特例適用OK 本人利用
    母所有土地部分 20㎡ 相続対象外
    母建物共有持ち分の敷地 50㎡ 相続対象外

     

    【関連記事】