戸籍謄本は、相続時の不動産・預貯金等の名義変更、相続税申告などの手続きの際に必要な書類となります。
相続の場面では、被相続人の「出生から死亡に至るまでのすべての戸籍」が必要となるため、すべてそろえるまでに相当な労力を要する場合があります。
また、一度取り寄せた戸籍謄本はいつまで有効なのか?原紙の提出が必要なのか・・さまざまな疑問が生じます。
そこで今回は、「相続に必要な戸籍謄本」の内容や、具体的な取得方法につき解説します。
目次
1. 戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)とは?
(1) 戸籍謄本とは?
戸籍謄本とは、「本籍」と「戸籍筆頭者の氏名」、その戸籍に入られている方人全員の、氏名・生年月日・続柄・「出生事項」「婚姻事項」などの身分事項が記載された公的な文書です。
(2) 相続で戸籍謄本が必要な理由
相続人は、民法で定められており、相続が発生した場合は、誰が財産を引き継ぐのか?相続人を確定する必要があります。戸籍が必要な理由は、この「相続人であることを証明するため」です。
例えば、被相続人が独身で、親がいない場合は兄弟が相続人となりますが、子供や親がいないことの証明として、「戸籍謄本」が必要となります。
(3) 相続に必要な戸籍謄本は?
一般的に、相続の際に必要な戸籍謄本は、以下の通りです。
対象 | 必要な戸籍 | 理由 |
---|---|---|
被相続人 | 出生から死亡までの戸籍謄本 | 亡くなった方の相続人(子供や兄弟など)を特定する必要がありますので、出生から死亡までのすべての戸籍謄本が必要となります。現在の戸籍は、例えば、過去に婚姻していた場合の子供の情報などは、記載されていません。 |
相続人 | 相続人全員の現在の戸籍謄本(相続発生後のもの) | 相続人は、その身元の特定及び現在の生存を確認するために現在の戸籍謄本が必要となります。 |
2. 出生から死亡までの戸籍の入手方法
戸籍は、結婚等により新しい戸籍に移りますので、現在の戸籍に出生から死亡まですべて記載されているケースはレアケースです。したがって、出生から死亡までの戸籍謄本を入手する場合は、「新しいものから古いものへと遡って取得」していきます。
当該作業は、想像以上に、労力を要する場合も多いです。
(1) 最後の戸籍謄本の取得
まずは、被相続人の最後の本籍地で「最後の戸籍謄本」を取得します。「相続手続で、一生分の戸籍謄本を揃えたい」とお伝えすれば、その役所で揃えられる戸籍はすべて用意してくれます。
(この「戸籍謄本」は、死亡届受理後は、「亡くなった事実」が記載されています)
なお、被相続人の「本籍地」がわからない場合は、被相続人の「住民票の除票」を「本籍表示あり」で取得すると、
本籍が記載されています(「死体埋葬火葬許可証」にも本籍地は記載)
(1) 出生までの分を遡って取得
入手した戸籍の内容を確認し、「編製」や「転籍」等がある場合は、その役所では一生分の謄本が揃いません。その場合、次はどこで戸籍を取得すればよいか?を教えてもらい、次の場所に、戸籍をもらいに行きます。
そこから順次さかのぼっていき、出生まで「すべての戸籍」を揃えていきます。
3. 戸籍謄本入手に必要な書類
メモ | ||
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取得先 | 被相続人の最終本籍地 | 原戸籍は本籍地でないと取得できません |
提出物 |
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各自治体HPから取得可能 (記載上の留意事項)
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添付書類 | 本人確認書類 | 運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど(顔写真付きの場合は1点でOK) |
提出方法 |
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(郵送の場合の注意事項)
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請求可能な方 | 筆頭者(夫)、配偶者(妻)、直径卑属(子、孫など)直系尊属(父母、祖父母等) | 代理人委託も可能(※) |
(※)代理人に委任する場合
代理申請の場合は、請求者からの「委任状」が必要です。委任状は「提出する自治体」HPでダウンロードできる所が多いです。
- 「依頼する方」の氏名・住所を記載し、捺印
- 「依頼される方」の氏名・住所を、依頼人が記入
- 代理人の「本人確認書類」が必要
4. 戸籍の見方・連続性の確認
(1) 戸籍の見方
戸籍謄本の「戸籍事項欄」(上の方)には、その戸籍謄本の「作成日」が記載されています。
また「戸籍事項欄」には、作成日のほか、以下3つのどれかが記載されています。
記載内容 | 摘要 |
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「改製」の記載 |
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「編製」の記載 |
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転籍 |
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上記のように、「最後の戸籍」の内容を把握し、その「前の戸籍」との連続性を確認しながら、順に古い戸籍をたどっていきます。そして、被相続人の出生日よりも前の戸籍にたどり着けば、「出生から死亡に至るすべての戸籍」を入手したことになり、戸籍の入手が完了します。この時点でようやく「相続人が確定」します。
一般的には、被相続人が10歳未満程度までわかる戸籍にたどり着けば、問題ありません。
(2) 留意事項
「戸籍謄本」を読み解く作業は、結構手間がかかります。前の戸籍謄本との連続性を確認しながら、遡っていかなければいけません。また、誰が相続人か?という判断も必要になります。例えば、相続人が死亡している場合は、代襲相続の知識など、法律上の知識も必要となります。
特に相続人が多い場合は、以下の状況も考えられますので、十分ご留意ください。
相続人が多い場合は、割り切って専門家(行政書士、税理士、司法書士等)に依頼する方が、時間や正確性の点で、効率的かもしれません。
5. 戸籍謄本の有効期限は?
不動産の名義変更や相続税申告の際、戸籍謄本を法務局や税務署に提出する必要があります(税務署はコピーでOK)。
法務局と税務署へ提出する必要書類に有効期限はありませんが、法務局提出の戸籍謄本は、被相続人死亡後のもの、税務署は相続開始の日から10日を経過した日以降に作成されたものである必要があります。
一方、預貯金や証券口座の名義変更の際も、金融機関に戸籍謄本を提出します。金融機関の場合、有効期限を「3カ月」と「6カ月」に設定しているところが多いようです。
6. 法定相続情報制度の利用
「出生から死亡に至るまでの戸籍謄本」は、相続では様々な場面で利用します。
相続税の申告だけでなく、銀行口座の変更(銀行)、不動産の名義変更(法務局)、自動車名義の変更(陸運局)などで必要となります。したがって、各手続利用後は、必ず返還をしてもらうようにしましょう。
また、名義変更の内容によっては、完了するまで「戸籍謄本」を返却してもらえない場合もあります。
こういった場合は、他の名義変更が滞ってしまいますので、「法定相続情報証明制度」を利用する選択肢もあります。
7. ご参考~戸籍の単位・改正原戸籍とは?~
(1) 戸籍の単位
戸籍法上、現在の戸籍は「夫婦とその子供の2世帯のみが単位」となっています。
例えば、子供が結婚した場合は、子供は親の戸籍から抜けて、子供夫婦が新しく戸籍を作ることになります。
この「新しくできた戸籍」には、古い戸籍の情報は一部しか転記されません。
例えば、婚姻前や、転籍前の情報は、新しい戸籍には記載されません。
また、離婚して夫婦でなくなったときは、戸籍から抜け、元の戸籍に戻ります。
例えば、子供がいる奥様が離婚した場合、子供は夫の戸籍のまま、自分だけが元の戸籍に戻る場合を考えます。
奥様の現在の戸籍では、自分の子どもの記載がありません。
つまり、結婚や離婚、養子縁組等のたびに戸籍が出来たり、戻ったりしますので、
現在の戸籍だけを見ていても、その方にお子様がいるか?までの情報は・・読み取れないのです。
そこで、「除籍謄本」を取り寄せることにより、「除籍前のすべての家族情報を確認し、その方の正確な相続人の情報を確定する」必要がある、ということです。
(2) 改製原戸籍とは?
「改製原戸籍」は、戸籍法の改正等で戸籍のフォーマットが変更された際の「変更以前の戸籍」を指します。
戸籍法の改正は、昭和32年、平成6年に行われ、その都度、新しい法律に合わせた新しい「戸籍」がつくられ、書き換えられています。
しかし、この書き換えは、過去に記載されていたすべての内容をそのまま書き写すわけではなく、「その時点で有効な事項」しか、書き替えません。例えば、戸籍法改正前に離婚した場合、改正前の「原戸籍」には、奥様やお子様の欄には×印がつけられ、父の欄にも離婚についての事項が記載されます。
ところが、その後の法改正では、新しい戸籍が作られると、父の欄の離婚の記載はなくなり、奥様や子供の記載もなくなってしまいます。
つまり・・法改正による「戸籍の書き換え」が行われる場合、それ以前の「離婚」「死亡」等による除籍情報は省略されてしまうため、最新の戸籍だけみても、その履歴がわからないのです。
そこで、法改正前の「改製原戸籍」を取り寄せることにより、改正前のすべての家族情報を確認し、その方の「正確な相続人の情報を確定する」必要があります。