「自筆証書遺言」とは、ご自身で手書きで残すタイプの遺言です。「公正証書遺言」よりも手軽に作成できるメリットがありますが、例えば自宅に保管する場合、紛失や不利な遺言内容を知った相続人に改ざんされるリスクが生じます。
そこで、自筆証書遺言のメリットを残しつつ、紛失や改ざんリスクを抑える趣旨で、法務局が遺言を預かってくれる「自筆証書遺言の保管制度」という制度があります。
今回は、法務局の「自筆証書遺言の保管制度」の内容や、メリットデメリット・具体的手続につきまとめます。
目次
1. 自筆証書遺言の保管制度のメリット・デメリット
「自筆証書遺言の保管制度」とは、「自らが手書きで書いた遺言書」を、法務局に預けることができる制度です。2020年7月10日から始まった制度です。自筆証書遺言を法務局に預け、画像データ化して保管されます。
当該保管制度を利用することで、遺言紛失リスクの回避だけでなく、遺言の所在が明らかとなり、相続手続の円滑化が図れます。「メリットデメリット」をまとめると、以下の通りです。
(「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の比較については、Q112をご参照下さい)。
(1) メリット・特徴
紛失や改ざん リスクを減らす |
自筆証書遺言をご自身で保管する場合、紛失リスクや、不利な遺言内容を知った相続人に改ざんされる可能性もあります。遺言を法務局に保管してもらうことで、紛失や改ざんリスクはなくなります。 |
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外形的チェックをしてくれる | 自筆証書遺言は、民法上、記載内容や自書などの要件が定められており、要件に合致しない場合は遺言が無効になります(民968)。この点、法務局に保管してもらう場合は、申請時に遺言の外形的な確認をしてくれますので、形式的な理由での遺言の無効のリスクを抑えることができます。 |
検認不要 | 検認手続とは、遺言書の存在を裁判所で明らかにすることで、偽造や変造を防止するための手続です。「自筆証書遺言」は、原則として、相続開始後遅滞なく、相続人全員で家庭裁判所で「検認」を受ける必要があります(民法1004条)。この点、「自筆証書遺言の保管制度」を利用する場合は「検認不要」となりますので、手間が省けます。 |
死亡時通知 | 自筆証書遺言の場合、遺言の存在自体を相続人が発見できないケースがあります。この点、「自筆証書遺言保管申請」の際に、「死亡時通知の申出」をすることが可能です。法務局が遺言者死亡を確認した際、「法務局で遺言書保管の旨」を、あらかじめ指定された相続人等に通知してくれるため、遺言書の存在が明確になります。 |
関係遺言書 保管通知 |
自筆証書遺言保管制度では、誰かが「遺言書の閲覧」や「遺言書情報証明書」の交付を受けた場合、その他全ての相続人等に「遺言書が保管されている旨」の通知が行われます。通知を行うことにより、他の相続人が遺言の存在を知ることになり、遺産分割等のトラブルを未然に防止することができます。 |
(2) デメリット・限界
遺言の内容まで確認するものではない | 「公正証書遺言」の場合は、公証人が1つずつ内容を確認していくため、内容の正確性及び遺言者の遺言能力が担保されます。一方、「自筆証書遺言書保管制度」は、あくまで遺言書を保管する制度であり、「遺言書」の内容の正確性及び遺言者の遺言能力を担保するものではありません。法務局で預かる際に確認するのは、外形的な確認(民法第968条に適合するか、作成日付や本人の自署、署名押印等)だけですので、後日の紛争防止という観点では、「公正証書遺言」の方が優れています。 |
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本人が法務局に行く必要がある | 例えば本人が病院等で寝たきりの場合でも、「公正証書遺言」の場合は公証人が出張での対応が可能です。一方。自筆証書遺言の保管制度の場合は、必ず遺言者本人が出向いて手続きする必要があり、代理人での対応は認められません(介添え程度であればOK)。 |
料金がかかる | 自筆証書遺言の保管制度を利用する場合、料金がかかります(保管手数料3,900円。閲覧は別)。 |
様式が決められている | 保管制度を利用する場合は、自筆詔書遺言であればすべて受け付けてくれるわけではなく、用紙はA4、余白など所定の様式が決められています。 |
2. 遺言者の手続
自筆証書遺言を法務局に提出する場合の手続きは、以下の通りです。詳しくは法務省HPをご参照ください。
(1) 自筆証書遺言の作成
自筆証書遺言で必要な要件(自筆、日付、作成者、押印等)を満たした自筆証書遺言を作成します。ただし、自筆証書遺言の保管制度の利用の場合、所定のフォームが決められています(A4片面、余白、ページ番号記載、ホッチキス止めしない)。法務省HPにテンプレートがありますので、こちらを利用して作成します。
(2) 事前予約
本人が、法務局に事前予約を行います(電話・窓口・ネット予約も可能)。
遺言書が保管できる法務局は、遺言者の①住所地、②本籍地、③保有する不動産を管轄する遺言書保管所となります。
なお、遺言書が保管できる法務局は限定されていますので、留意が必要です(法務省HPに一覧があります)。
(3) 必要書類の準備
自筆証書遺言 | 事前に作成した自筆証書遺言を準備します。法務局へは、「無封状態」の遺言書原本を持参します |
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遺言書の 保管申請書 |
法務省HPからダウンロード可能。 |
本人確認書類 | 顔写真付き身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど) |
住民票 | 「本籍地」と「戸籍の筆頭者」の記載がある住民票(取得後3ヵ月以内) |
(4) 法務局で申請・保管証交付
上記書類を持参し、法務局で申請、3,900円かかりますので収入印紙を添付します。
提出した書類に不備がなければ、その当日「保管証」が交付されます(後日郵送も可)。
遺言者の氏名・生年月日・遺言書保管所の名称・保管番号が記載されています。
(5) 保管期間
現物は遺言者の死後50年ですが、スキャン画像データは150年となっています。また、公正証書遺言と同様、原本の返却はありません。謄本のみがもらえます。
3. 遺言者の遺言閲覧や撤回は?
遺言を作成した人は、保管した遺言書保管所で遺言書の原本の閲覧や、他の遺言書保管所で遺言書の画像データの閲覧が可能です。また、作成した遺言は、撤回も可能ですし、内容を変更したい場合は、新たな遺言書を作成して、再度遺言書保管所で手続を行います。
(1) 閲覧できるのは遺言作成者のみ
なお、生前に遺言を閲覧できるのは遺言作成者本人のみです(代理人も不可)。相続人や受遺者は、遺言者死亡前は、遺言書の閲覧や検索を行うことはできません。遺言者が死亡した後に、相続人等関係者限定で検索が可能です。公正証書遺言と同様です。
(2) 保管申請は通知されない
保管制度による保管申請をしても、別段、ご家族などには通知はされません。
なお、遺言者死亡の際は、あらかじめ「死亡時通知の申出」をしている場合は、遺言者死亡時に、「法務局で遺言書保管の旨」を、指定された相続人等に通知してくれます。
4. 相続人の請求手続
相続人や受遺者等は、相続開始後(遺言者死亡後)に、初めて遺言書の保管有無の確認(遺言書保管事実証明書)、遺言書の閲覧請求(遺言書情報証明書)が可能です。手続の詳細は、法務省HPをご参照ください。
(1) 遺言書情報証明書の効果
自筆遺言書に代わる書面となりますので、不動産登記手続や預貯金などの名義変更等の場合に利用できます。
(2) 証明書を取得できる方
相続人・受遺者・遺言執行者等、およびその親権者や成年後見人などの法定代理人が取得可能です。
(3)証明書入手の際に必要な書類
●法定相続情報一覧図の写し or 原戸籍謄本+相続人全員の戸籍謄本+相続人全員の住民票(作成後3か月以内)
●顔写真付きの身分証明書(マイナンバーカード、運転免許証等)
なお、請求者が相続人以外の場合(受遺者、遺言執行者、法定代理人、法人)の場合は、別途の書類が必要です。詳しくは、法務省HPをご参照ください。
5. YouTube
YouTubeで分かる「法務局 自筆証書遺言保管制度とは?」