被相続人がお亡くなりになる前は、「医療費」が発生しているのが一般的です。
医療費を支払う方は、本人の場合のほか、相続人が立替で払うケースもあると思います。
所得税上、支払った医療費については、一定額を超えると「医療費控除」が可能です。
一方、所得税上の「医療費控除」とは別に、相続税では「債務控除」という制度があり、相続発生時点で未払の医療費については、債務控除(相続財産から控除)可能です。
今回は、所得税上の「医療費控除」と相続税上の「債務控除」の関係につきまとめます。
目次
1. 相続税上の債務控除
(1)相続税上の債務控除とは?
相続税上の「債務控除」は、相続発生時点で「被相続人」が負担すべき債務につき、相続財産の計算の際に控除できる制度です。
(2)債務控除と医療費の関係
「債務控除」は、相続発生時点の債務ですので、原則として、相続発生日後に支払われるものとなります。
ただし、相続開始前に「相続人」が立替払いした部分も、被相続人から見た場合、相続発生時点では、「相続人に対する債務」となりますので「債務控除」が可能です。
支払者ごと、相続発生前後でまとめると以下の通りとなります。
相続開始前の支払 | 相続開始後の支払 | |
---|---|---|
被相続人支払 | 債務控除ではない (単に相続人が保有する現金が減少しただけ) |
-(既に亡くなられているため) |
相続人支払 | 債務控除OK(相続人に対する債務)(※) | 債務控除OK(病院に対する債務) |
(※)後日被相続人に清算予定の立替支払のみ(扶養義務間での当然の支払は「債務控除」できないケースあり)
(3)被相続人に資力がない場合
上記のとおり、相続人が立替えた医療費は、基本的には「債務控除」が可能ですが、扶養義務間での当然の支払いの場合には「債務控除」できないケースがあります。例えば、被相続人に「入院費」を支払える資力がない場合です。
この場合は、相続人が民法上の扶養義務の履行(民法877)として医療費を支払うことになりますので、被相続人が負担すべきものではなく、相続人が負担すべき医療費となります。
相続税が課税されるケースで、こういったケースはあまりないかもしれませんが、たとえ「相続人」が医療費を立替払いした場合でも、債務控除ができません。ご留意ください。
2. 所得税上の医療費控除
(1)医療費控除とは?
所得税上の医療費控除は、相続税の「債務控除」とは全く別の制度です。
所得税上の「医療費控除」は、一定額以上の医療費の支払がある場合に、所得税が安くなる制度です。
支払者本人だけでなく、「生計を一にする方」のために負担した「医療費」も、本人自身の医療費控除に利用できます。
(2)生計を一にするとは?
イメージは、「財布がいっしょ」ということです。
「同居」は要件とはなっていませんが、「生活費等の送金等が行われている場合」などが例示されています。
同居の場合は、原則として「生計を一としている」と取り扱われます(所基通2-47)。
(3)相続の場面での「医療費控除」の適用関係
「相続」の場面でも、所得税上の「医療費控除」は適用可能です。
所得税上の医療費控除は、医療費を支払っている方が「医療費控除」を行うことが可能です。
生前に被相続人が支払った医療費は、被相続人自身の「準確定申告」で医療費控除を行います。
一方、被相続人と「生計を一」にする「相続人」が医療費を支払った場合は、「相続人」の確定申告で医療費控除を行います。「相続開始」前後にかかわらず可能です。被相続人の準確定申告では控除できません。
支払者ごと、相続発生前後でまとめると以下の通りとなります。
相続開始前の支払 | 相続開始後の支払 | |
---|---|---|
被相続人負担 | 被相続人の準確定申告で医療費控除(※1) | – |
相続人負担 | 相続人の確定申告で医療費控除(※2) | 相続人の確定申告で医療費控除(※2) |
(※1)相続が発生した場合は、相続人は、被相続人の相続発生時点までの所得につき、相続後4カ月以内に「準確定申告」を行わなければいけません。
この「準確定申告」の中で、生前に「相続人本人」が負担した医療費は、「医療費控除」を行うことになります。
(※2)被相続人の準確定申告では控除できません。
3. 「債務控除」と「医療費控除」がダブルで引ける?
上記の通り、相続人が負担した「医療費」は、相続前後にかかわらず、債務控除も医療費控除もできる場合があります。
二重に差し引いている感じがしますが、それぞれの目的が異なるので、両方とも適用が可能です。
4. 例題
●母が12月31日に亡くなった(母の資力はあるものとする)
●息子Aは母と同居し、母と生計を一にしている。
●息子Aには妻B子がいる。
●母が生前かかった医療費や、医療費支払者は以下の通り
支払日 | 医療費金額 | 支払者 | 債務控除 | 準確定申告 (母) |
確定申告 (息子A・妻B子) |
---|---|---|---|---|---|
10/30 | 50,000円 | 母 | –(※1) | ○(※2) | – |
11/30 | 150,000円 | 息子A | ○(※3) (対 母親) |
– | 〇 |
1/30 | 200,000円 | 息子A | ○(※3) (対 病院) |
– | 〇 |
2/28 | 50,000円 | 妻B子 | ×(※4) | – | – |
(※1)本人(母)の相続財産(現金)が減少するだけなので、債務控除はなし。
(※2)本人(母)の準確定申告で、「医療費控除」が可能。
(※3)息子Aは法定相続人のため、相続前後に関わらず債務控除が可能。また、生計を一にしているため、本人の確定申告で「医療費控除」も可能。
(※4)妻B子は、法定相続人ではないため債務控除は不可。
5. 参照URL
(No.4126 相続財産から控除できる債務)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
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