前回お伝えしたとおり、民法改正により、2020年4月以後の相続より「配偶者居住権」という新たな権利が認められます。
「配偶者居住権」を設定する場合、従来の不動産所有権が「配偶者居住権」と「その他の権利」に区分されます。
今回は、この「配偶者居住権」「その他の権利」の相続税上の評価方法を解説します。
目次
1. 配偶者居住権の存続年数により評価がかわる
「配偶者居住権」は、存続年数を自由に設定できます。
例えば、「任意の年数」も可能ですし、「死ぬまで一生涯の年数」を存続年数として設定することも可能です。
この「配偶者居住権」の存続年数によって、相続税評価額はかなり変わってきます。
2. 配偶者居住権がある場合の建物の評価方法(相23条の2)
(1) 一般的な建物の相続税評価額
一般的に、建物は「固定資産税評価額」をもとに、相続税評価額を計算します。
(2) 配偶者居住権がある場合
建物全体の「固定資産税評価額」(上記(1))を、①その他の権利部分と②配偶者居住権」部分に区分して評価します。
計算方法は、最初に①その他の権利部分の評価額を算定し、差引で②配偶者居住権の評価額を算定します。
① 「その他の権利」の評価
以下の式で評価を行います。
(A) 建物残存耐用年数 = 建物法定耐用年数 – 経過年数
⇒居住用のため、通常の耐用年数 × 1.5倍で計算
(B)「配偶者居住権の存続年数」に応じた民法法定利率による複利現価率
⇒2020年4月以後の民法法定利率は、「年3%」となります
式は難しいですが・・ イメージは以下です。
分母 | 現在の建物に、あと何年くらい住めるのか?(建物残存耐用年数) |
---|---|
分子 | 配偶者居住権消滅時の「残存耐用年数」を示します。 建物残存耐用年数のうち「配偶者居住権の存続年数」を引くと、残りどれくらいの年数住めるのか? (=その他の権利部分) |
上記分数の意味 | 配偶者居住権設定時の「残存耐用年数」に占める「消滅時の残存耐用年数」を示します。 |
この分数割合に、完全な所有権の価値である「固定資産税評価額」を掛け合わせることにより、「配偶者居住権消滅時の建物の価額」を算定しています。
- 配偶者居住権の存続年数
- 複利原価率
「終身」にした場合は、「平均余命年数」(厚生労働省 完全生命表 )より算定します。
終身以外の場合は、「遺産分割協議等により定められた」配偶者居住権の存続年数となります
(上記の平均余命年数が上限)。
年3%の複利原価率は、国税庁HPに記載されています。
③ 「配偶者居住権」の評価
固定資産税評価額 – 上記①となります。
3. 配偶者居住権がある場合の土地の評価方法
(1) 一般的な土地の相続税評価額
「路線価」あるいは「固定資産税評価額」をもとに相続税評価額を計算します。
(2) 配偶者居住権がある場合
土地全体の「路線価」あるいは「固定資産税評価額」(上記(1))を、①その他の権利部分と②配偶者居住権部分に区分して評価します。考え方は、建物と同じです。
① 「その他の権利」の評価
以下の式で評価を行います。
② 配偶者居住権の評価
土地の相続税評価額 – ①
4. 具体例
- 相続時の配偶者(妻)の年齢 80歳
- 配偶者居住権の年数 終身
- 建物 鉄筋コンクリート(法定耐用年数70年)築年数20年
- 建物 相続税評価額3,000万円 土地相続税評価額4,000万円
- 80歳女性の平均余命年数12年(複利原価率0.701)
(1) 建物
① 「その他の権利」の評価
② 配偶者居住権の評価
3,000万円 – 1,598.28万円 = 1,401.72万円
(2) 土地
① 「その他の権利」の評価
4,000万円 × 0.701 = 2,804万円
② 配偶者居住権の評価
4,000万円 – 2,804万円 = 1,196万円
(3) 評価額まとめ
全体 | その他の権利 | 配偶者居住権 | |
---|---|---|---|
建物 | 3,000 | 1,598.28 | 1401.72 |
土地 | 4,000 | 2,804 | 1,196 |
なお、「経過年数」が「法定耐用年数」を超えている場合など、結果的に計算式がマイナスになる場合もありえます。
その場合、「その他の権利の評価」はゼロで計算します。
したがって、計算式がマイナスの場合は、全額が「配偶者居住権の評価」になります。