「遺言書」がある場合は、相続発生後、原則として「その内容に従って」遺産を分割する必要があります。
しかし、場合によっては、遺言を作成した人よりも、「遺言書」に記載された受遺者(財産を受け取る人)が先に亡くなってしまうケースもあります。この場合、「遺言書」の効力はどうなるのか?迷いが生じます。
今回は、こういった場合の「遺言書」の効力や、「予備的遺言」の重要性につきお伝えします。
目次
1. 相続と遺贈の違い
相続とは、被相続人の財産を、包括的に「法定相続人」が引き継ぐことをいいます。
一方、遺贈とは、被相続人の財産を、「遺言」により「特定の人」に無償で与えることをいいます。
「相続」が可能なのは、「法定相続人」のみで「第三者」は含まれません。一方、遺贈については、遺言書を作成することで、法定相続人でない「第三者」に対しても可能です(法定相続人への遺贈も可能)。
相続と遺贈の違いについては、Q60をご参照ください。
2. 遺言書の「受遺者」が先に亡くなった場合の遺言書の効力(遺贈)
遺言書に記載された「受遺者」が、「遺言作成者」よりも先に亡くなった場合は、原則として、その部分の遺言書は効力が生じません(民994条)。遺言全体が無効になるわけではなく、当該死亡した受遺者に与えるはずだった部分についてのみ無効となります。
当該無効となった部分は「法定相続」に戻ります。受遺者の相続人が相続するわけではありません。遺贈については、相続において認められる「代襲相続」の制度はありません。
ただし、例外的に、遺言書に「受遺者が先に死亡した場合は、その受遺者の相続人に遺贈する」記載があれば、「その定めは有効」なものと取り扱われます。
3. 遺言書の「法定相続人」が先に亡くなった場合の遺言書の効力(相続)
遺言書に記載された「法定相続人」が、「遺言作成者」よりも先に亡くなった場合の遺言書の効力はどうでしょうか?
遺言書で財産を渡す相手が「法定相続人」の場合は、遺言書で「遺贈する」と記載する場合と、「相続させる」と記載する場合の2つに分かれます。それぞれで取扱いが異なります。
(1) 「遺贈する」の場合
遺言書の文言が、相続人に対して「遺贈する」と記載されている場合は、上記2の取扱いと同様です。原則として、その部分の遺言書は、無効となります(民994条)。
(2) 「相続させる」の場合
一方、法定相続人に「相続させる」と記載されている場合は、相続による「遺産分割方法の指定」となり、遺産分割協議を経ることなく、相続時点で、当然に法定相続人に所有権が移転します(平成3年4月19日最高裁)。
当該「相続人」が、「遺言作成者」よりも先に亡くなってしまった場合、民法994条(遺贈)は直接適用はできませんが、過去の判例では、遺贈と同様に、その部分については、原則無効と解されています(平成23年2月22日最高裁)。
ただし、上記最高裁判決では、「遺言者が相続人の「代襲相続人等」に財産を相続させる意思があった」事情があれば「有効」となる旨示しています。例えば、遺言書で、「相続人が先に死亡した場合にその子(代襲相続人)に代襲相続させる)」旨の記載があれば、「有効」となります。
(4) 具体例
●波平が、「遺言書」に、「サザエ(法定相続人)に全財産を相続させる」旨を記載した。
●波平より先にサザエが死亡し、その後、波平が死亡した。この場合の「波平の相続財産」の相続人は?
遺言書の効力 | |
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原則 | 「遺言書」の効力は原則無効。したがって、波平死亡時、遺言書の内容にあるサザエがもらうべき「全財産」を、遺産分割協議なく、タラちゃんが代襲相続することはできません。 (ただし、遺産分割協議を行い、相続人間で決定したサザエ相続分については、当然代襲相続可能です)。 |
例外 | 遺言書に、「サザエが先に死亡した場合、タラちゃん(代襲相続人)に全財産を譲る」記載がある場合、「遺言書」の効力は有効となります。 この場合は、遺言書の内容通り、タラちゃんは、遺産分割協議を経ることなく、波平の全財産を受け取ることができます。 |
(5) 無効になる部分
あくまで無効となるのは、「先に亡くなった相続人がもらうはずだった部分」だけですので、その他の遺言書の効力は有効のままです。
4. 予備的遺言の重要性
上記のとおり、「遺贈」「相続」どちらにおいても、遺言作成者よりも先に「相続人」等が亡くなった場合、「遺言作成者が、相続人の代襲相続人等に財産を相続させる意思があった」事情があれば「有効」となります。したがって、そのような意思がある場合は、「遺言書」に、その旨明確に記載しておくことが必要となります。
これは、「予備的遺言」と呼ばれ、遺言書で「相続人・受遺者が先に死亡した場合の取扱いを指定しておく」ものです。
「予備的遺言」があれば、相続人が先に亡くなった場合の取扱いが明確となり、相続人間の争いもなくなりますので、非常に有用です。
【予備的遺言の記載例)
5. 遺言書の記載は「相続させる」と「遺贈する」はどちらがよいのか?
先ほどお伝えした通り、遺言書で「相続させる」の記載があれば、相続開始時点で、遺産分割協議を経ることなく、当該財産は「遺産分割」され、当然に所有権が移転することになります。
一方、「遺贈する」という文言の場合は、相続開始時点では当然に所有権が移転するわけではなく、単に遺言者からの受遺者への「財産遺贈義務」を相続人全員が引き継ぐことになります。相続登記は、相続人単独で行えますが、遺贈登記は、権利者(受遺者)単独では行えず、登記義務者(遺言執行者または相続人全員)と共同申請が必要となります。
承継財産が「不動産」の場合は、「相続」と「遺贈」で、以下の点に大きな違いが生じます。
相続の場合 | 遺贈の場合 | |
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相続登記 | 単独で不動産登記が可能 | 他の法定相続人全員の協力必要(※) |
相続債権者への対抗 | 登記なくても相続債権者に対抗可 | 登記がないと相続債権者に対抗不可 |
借地権等相続の場合 | 賃貸人の承諾不要 | 賃貸人の承諾必要 |
(※)遺言執行者がいる場合は、遺言執行者と受遺者で手続可能
「遺贈」登記の手続きは、相続よりも煩雑で必要書類も多くなります(少なくとも相続人全員の「印鑑証明」が必要)また、他の共同相続人が勝手に不動産を第三者に譲った場合、相続の場合は、登記がなくても「第三者に対抗可能」ですので、「第三者」に土地の返還を求めることも可能です。
なお、登録免許税は、「遺贈」の方が「相続」よりも税率が高くなりますが(遺贈:1000分の20、相続:1000分の4)、遺贈の受遺者が「法定相続人」の場合は、1000分の4で計算されますので、この点において違いはありません。
上記の点を踏まえると、遺言書で財産を渡す相手が「相続人」の場合は、事務処理や、法的な保護の観点では、「相続させる」と記載したほうがよさそうです。