贈与税には年間110万円の非課税枠がありますので、早いタイミングから子供に「生前贈与」を検討される方も多いかもしれません。しかし、贈与の相手となる子供が、まだ「自分で意思表示できない」赤ちゃんの場合、そもそも「贈与」が、法的に有効に成立するのか?疑問が生じます。
そこで今回は、赤ちゃんや未成年者等に対する「贈与の有効性」や、「贈与税」との関係、税務調査でよく問題となる「名義預金」との関係につきお伝えします。
目次
1. 赤ちゃんへの贈与の有効性
(1) 赤ちゃんへの贈与は可能か?
贈与は、財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が「受諾の意思表示」をすることで効力が生じます(民549条)。
この点、赤ちゃんの場合、自分で「受諾」の意思表示はできません。しかし、未成年者の場合は、本人に代わって親権者が法定代理人となるため(民824)、親が法定代理人として贈与の「同意」を行えば、贈与は有効に成立します。
(2) 意思表示ができる未成年者の場合は?
過去の判例では、7歳程度を目安に「意思能力が備わる」とされていますが、たとえ意思能力が備わった未成年者の場合でも、贈与の際には、親権者(法定代理人)の同意が必要となります。
2. 特別代理人の選任は必要か?
(1) 利益相反取引
親子間取引の場合、親権者が法定代理人の立場を利用して、子供に不利益な条件で契約等を締結する可能性があります。例えば、親権者が法定代理人の立場を利用して、子供に高く不動産を買い取らせる「売買契約」や、自分に有利な遺産分割を行う「遺産分割協議」などです。
こういった、親子間で「利益相反」が生じる取引の場合、民法上、親は子を代理できず、別途、「特別代理人」の選任が必要とされています(民826条)。
(2) 親から子供への贈与は利益相反になるのか?
では、親から子供への贈与は、「利益相反」取引になるのでしょうか?
親から子への「単純な贈与」の場合、子供は無償で財産をもらうにすぎず、子供の利益を害することはありません。したがって、単純な無償贈与の場合は、「利益相反取引」には該当しません(大判昭6.11.24民集10・1103)。したがって、赤ちゃんへの贈与は、原則として「特別代理人」の選任は必要ありません。
ただし、「負担付贈与」など、子供に何らかの負担を求める契約は、「利益相反取引」に該当します。例えば、親権者が未成年者に不動産を贈与した後も、引き続き親権者の居住を認めさせるなどの「負担」を伴う贈与です(大判昭12.10.18法学7・130)。こういった場合、親は子供の法定代理ができず、「特別代理人」の選任が必要となります。
3. 贈与税との関係
(1) 贈与税の課税対象
上記の通り、親から子供への贈与は、原則として、「特別代理人」の選任なしでも有効に成立します。したがって、贈与額が「暦年贈与非課税枠110万円」を超えた場合は、通常通り、贈与税の課税対象となります。
(2) 贈与税の申告者・負担者は?
贈与税の申告・納税義務は、贈与を受けた側に生じるため、赤ちゃんの場合は、法定代理人となる親が申告・納税を行うことになります。ただし、あくまで贈与税は、贈与を受けた赤ちゃん自身が負担する必要があるため、仮に赤ちゃんが負担すべき贈与税を、親権者の資金から支払った場合、負担した金額は、贈与税の課税対象となります。
(3) 生活資金は?
赤ちゃんへの贈与といっても、例えば、赤ちゃんを育てるための「生活費や教育費」などは、贈与税の課税対象とはなりません。扶養義務者間で、通常必要となる「生活費」や「教育費」は非課税とされています。
4. 名義預金との関係
赤ちゃんへ贈与する場合、「名義預金」との関係に注意が必要です。名義預金とは、口座の名義人と、実際の財産所有者が異なる預金のことです。
例えば、親が勝手に「赤ちゃん名義」の銀行口座を開設し、親が当該口座に資金を振り込んでいる場合、当該預金は「名義預金」となります。
税務調査などで「名義預金」に認定されると、税務上は、贈与がなかったものとされ、赤ちゃんの財産ではなく、親の財産として相続税が課税されます。
「名義預金」と認定されないためには、以下の対応が考えられます。
(1) 贈与契約書の作成
民法上、贈与契約は、当事者の合意があれば口約束だけでも成立しますが(民522条Ⅱ)、贈与契約書を作成しておけば、原則として、第三者に対しても契約成立の主張が可能です(民訴法228条④)。
まだ字の書けない赤ちゃんの場合は、契約書に署名ができないため、法定代理人である親権者が代筆及び署名を行います。
(2) 通帳等で履歴を残す
贈与契約書を作成している場合でも、贈与資金の動きを証明できない場合は、贈与が成立していないと指摘される可能性があります。したがって、贈与は現金ではなく、預金口座で振込等により履歴を残しておく方が望ましいです。また、たとえ110万円以内の贈与でも、贈与税の申告をしておけば、贈与の事実を証明する手段にもなります。
(3) 贈与の意思を伝えておく
ある程度大きくなり、意思能力が備わった時点で、お子様に、贈与の事実や意思を伝えておくことが必要です。仮に、子が、「贈与の事実」を知らないまま親が亡くなった場合、贈与は成立していないものとされ、「名義預金」として相続税が課税される可能性があります
親権者は、子の財産管理権を保有していますが(民824条)、子が成人した後は(18歳)、通帳や印鑑などは子供に渡しておく方が望ましいです。
(4) 定期贈与をしない
例えば、1,000万円を、事前の取り決めに基づき100万円ずつ10年間に分けて行う贈与は「定期贈与」と呼ばれます。こういった「定期贈与」の場合は、贈与開始時に「すべての金額を贈与する意思があった」とみなされ、贈与開始時に全額贈与税が課税されます(定期金に関する権利)。したがって、贈与する場合は、「定期贈与」と認定されないように、毎年贈与契約書を作成し、暦年毎に贈与を行う必要があります。
なお、毎年「同額の支払」だからといって「定期贈与」とみなされることはありませんが、毎年の金額や時期が異なれば、「その都度贈与額を決めて支給している」という説明がしやすい、のは間違いありません。
5. 祖父母から孫(赤ちゃん)への贈与は?
孫の法定代理人は、親権者(親)となりますので、親権者の同意があれば、孫と祖父間でも贈与は有効に成立します。ただし、親権者(親)は、あくまで法定代理人として子の財産管理を行う立場ですので、仮に、当該「贈与財産」を親権者自身が利用した場合は、「祖父母から親権者への贈与」と判定される点には注意が必要です。
6. 参照URL
No4402 贈与税がかかる場合
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm
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