被相続人が1月1日~お亡くなりになるまでに所得が発生している場合、相続税申告とは別に、最後の「所得税確定申告」を行わなければいけません。「準確定申告」と呼ばれます。被相続人に代わって、相続人が申告を行います。
「準確定申告」はすべての場合に必要というわけではありませんが、場合によっては、「準確定申告」をすることで、税金が還付される場合があります。
今回は、準確定申告が必要なケースや、準確定申告で税金が還付される場合等を中心にお伝えします。
(なお、1年以上の予定で海外に移住する場合も「準確定申告」が必要なケースがあります。こちらは別論点になりますので、Q52をご参照ください)。
目次
1. 準確定申告とは?申告期限・提出義務者は?
(1) 準確定申告とは?
確定申告が必要な方が年途中に亡くなった場合に、被相続人の代わりに、ご家族(相続人等)が、亡くなった日までの所得に対して行う「所得税確定申告」です。
(2) 申告期限
① 相続開始があったことを知った翌日から4か月以内
相続開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内となります。例えば、相続開始は令和4年1月1日だが、被相続人と疎遠だったため、相続開始を知ったのが令和4年3月1日であれば、そこから4か月後の令和4年7月1日となります。
② 前年分の確定申告が未了の場合
上記例のように、令和4年3月1日に相続の開始があったことを知った場合、準確定申告の期限は令和4年7月1日となりますが、令和3年12月期の通常の確定申告期限も令和4年7月1日となります。この令和3年12月期の確定申告も、亡くなった方の確定申告となりますので「準確定申告」と呼ばれます。
(3) 提出義務者・提出先
お亡くなりになった方の代わりに、相続人(相続放棄者等は除く)が行います。原則として連署で行いますが、各相続人が別々に申告書を提出することも可能です。
被相続人の住所地を管轄する税務署になります。相続人の住所ではありません。
e-tax(国税電子申告)での提出も可能です。
2. 準確定申告が必要なケース・不要なケース
準確定申告の「申告義務」がある方は、通常の「確定申告義務」と全く同じです。
例えば、従来から確定申告を行っていた自営業者や、賃貸不動産の収入がある方は、原則として申告義務があります。
また、不動産や株の売却収入がある方も対象となります(源泉分離課税は除く)。
なお、通常の確定申告義務と同様、経費等を差し引きした結果、所得ゼロになる場合は申告義務はありません。
申告必要 | 不要 |
---|---|
●公的年金等による収入が400万円超 ●公的年金等雑所得以外に20万円超の所得あり ●給与収入 2,000万円超 ●給与所得・退職所得以外に20万円超の所得あり ●2か所以上から給料ある方(年末調整未了) |
●公的年金等による収入が400万円以下 かつ、公的年金等雑所得以外の所得が20万円以下 ●給与収入2,000万以下 かつ、給与所得・退職所得以外の所得が20万円以下 ●給与所得者で、勤務先が1か所の方(年末調整済)。 |
3. 準確定申告をした方がよいケース
準確定申告が不要のケースでも、申告を行うことで、還付金を受け取ることができる場合があります。例えば、以下のケースです。
●給与や年金等で源泉徴収されている所得税がある場合
●医療費控除や、ふるさと納税等がある場合
●配偶者控除、扶養控除、寄付金控除などの各種控除を受ける場合など
ただし、準確定申告を行った結果、還付される税金が僅少な金額の場合は、費用対効果を考えて申告有無を検討する必要があります。
4. 扶養控除等の注意事項
準確定申告でも、通常の確定申告同様、扶養控除や配偶者控除は可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です。
(1) 判定時期
「配偶者控除や扶養控除」などの判定時期は、亡くなった日時点で行います。
(2) 扶養控除・配偶者控除
月割計算はありませんので、年途中で亡くなった場合も、控除額の全額控除可能です。ただし、扶養控除等の判定の際に関連する「合計所得金額」は、1年分の金額の見積額で行う点に注意が必要です。
(3) 社会保険料控除・生命保険料控除・医療費控除
本人が亡くなった当日までに支払った金額で行います。
5. 提出書類
確定申告とほぼ同じですが、下記の添付書類が必要となります。
(1) 添付書類
① | 「死亡した者の令和○年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(兼相続人の代表者指定届出書)」 | 相続人が2名以上いる場合に提出します。 |
---|---|---|
② | 委任状 | 相続人が2名以上いる場合、準確定申告還付金を代表相続人が一括して受領する場合に提出します。 |
(2) E-TAXの場合の注意事項
E-taxの場合は、以下の点に注意が必要です。
- 上記の添付書類①は、相続人1人の場合も必要となります。
- 上記のほか「準確定申告の確認書」が必要となります。被相続人と相続人代表者を記載し、相続人全員の自署押印が必要となります。
- 委任状は、E-TAX不可です。
(3) 記載例
- 「準確定申告」は、普通の確定申告と同じ様式のため、第一表、第二表のタイトルに、「準」の文字を手書きで加える形で提出します。
- 相続人が2人以上の場合、住所や氏名は、被相続人の情報を記載し、相続人の情報は、付表で記載します(相続人1人の場合は付表不要。1人の場合、第一表の名前と住所は、被相続人と相続人を連名で記載)。
6. 準確定申告をしなかった場合
無申告加算税や延滞税が課税されます。
7. 消費税の準確定申告
亡くなった方に事業所得や不動産所得等があり、消費税納税義務者の場合は、消費税についても「準確定申告」の手続が必要になります。
8. 亡くなった方の事業を引き継ぐ場合
亡くなった方が「青色申告」であっても、相続で事業を引き継ぐ人は、自動的に青色申告を引き継げるわけではなく、相続人が改めて青色申告承認申請書の提出が必要になります。
この場合、相続人の「申請書提出期限」は以下の通りとなります。
イレギュラーな提出期限となりますので、注意が必要です。
亡くなった日 | 提出期限 |
---|---|
1月1日~8月31日 | 亡くなった日から4か月以内 |
9月1日~10月31日 | その年12月31日まで |
11月1日~12月31日 | 翌年2月15日まで |
なお、亡くなった方や事業を引き継ぐ方が白色申告の場合は、他の青色申告と同様、原則として、青色申告をしようとする年の3月15日が期限となります。
9. 参照URL
(No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告))
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2022.htm
委任状(準確定申告用)
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/topics/shinkoku/ininjyo.htm
(死亡した方の準確定申告をする場合の記載例①)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/014.pdf
(死亡した方の準確定申告をする場合の記載例②)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/kisairei/2020/pdf/015.pdf