親から子供に、「住宅取得資金」を一括贈与する場合は、原則として贈与税がかかります。
ただし、直系尊属からの贈与については、要件を満たせば最大1,000万円まで非課税となる制度があります(措置法第70条の2)「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度」といいます。
住宅ローン控除や、暦年贈与の年間110万円非課税制度との併用も可能ですが、併用する場合には注意事項があります。
今回は、住宅取得資金の贈与税非課税制度の概要と、住宅ローン控除、暦年贈与110万円非課税制度との関係につき解説します。
目次
1.住宅取得資金の贈与税非課税枠
住宅取得資金については、現在、下記の「贈与税非課税枠」が認められています。
(1)非課税限度額
非課税限度額は以下となります。贈与を受ける「受贈者」ごとの非課税限度額ですので、複数の贈与者で限度額が2倍になるわけではない点にも注意が必要です。
住宅等の契約時期 | 通常の非課税限度額 | 省エネ住宅の場合の非課税限度額 |
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消費税率10%の場合 (~R8 12/31) |
500万 | 1,000万 |
(2)要件等
今回の制度は、新たに住宅を取得するための「資金援助」に限定され、不動産自体の贈与は対象外となります。
資金の援助であれば、購入対象は、「中古マンション」や、「増改築等」でも特例の対象となります。
それぞれ、細かい要件がありますので、要件の詳細は、国税庁HPをご参照ください。
期間 | ~令和8年12月31日まで |
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対象 |
家新築・増改築・マンション購入・土地購入など
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要件 |
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なお、土地だけの取得の場合は、居住できませんので対象となりません。非課税制度を申請する人が家屋を取得している必要があります。例えば、住宅取得資金を贈与を受けた方が夫で、夫が土地購入、妻が家屋購入する場合などは・・対象とならない点に注意しましょう。資金贈与を受ける人と家屋所有者が一致している必要がある点に十分留意が必要です。
合計所得金額とは、給与所得だけでなく、譲渡所得などの他の所得も合算した金額を指し、例えば、3,000万円の特別控除を利用する場合でも、「合計所得金額」は、特別控除適用前の金額になります。
特にマイホームを買い換える場合、旧マイホームの譲渡所得を含めて「合計所得金額」が、2,000万円を超えるケースもありえますので、注意が必要です。
2.タイミングに注意
贈与はあくまで「お金」となります。住宅取得等「資金」の贈与税の非課税制度ですので、土地や建物など不動産本体の贈与は×です(先に立替や借入資金で住宅購入の資金を支払い、その後に「贈与資金」で清算や借入金の返済にあてるのも×)。
また、住宅取得資金の贈与税非課税枠を利用する場合は、贈与を受ける時期、居住開始時期につき、十分に留意が必要です。
(1)贈与を受けるタイミング
住宅取得を目的とした資金の贈与は、「入居前」に受ける必要があります。
入居後に受け取った場合は、制度を利用することができません。
(2)取得・引渡しのタイミング
贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住居を新築・取得することが要件になります。
売買契約を締結しただけでは「取得」にはあたりません。マンション等の場合は、「引渡し」が取得になります。
住宅の新築はスケジュール通りに進まないこともありますので、贈与を受けた後、翌年3月15日に引渡しできない場合もあるかもしれません。
したがって、贈与自体のタイミングは、居住開始の直前に受ける方がよいかと思います。
なお、上記要件を満たさない場合でも、入居の見込みがあると判断された場合は、最大で「贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住」の例外的な取扱いが認められています。
(3)具体例
(例)令和6年3月31日にマンション引渡しの場合
●贈与資金受取時期・・令和6年1月1日~令和6年3月31日
⇒令和5年中の贈与だと、翌年3月15日までに引渡しされていないため、要件満たさない)
●贈与税申告時期・・令和7年3月15日(贈与を受けた年の翌年)
3.贈与税申告書の提出期限/必要書類
この特例は、期限内申告が要件となっています。贈与を受けた年の翌年3月15日までに、税務署に「贈与税申告書」の確定申告提出が必要となります。特例を適用することで全額が非課税となった場合にも、申告手続は必要です。期限後申告の場合は、特例の適用ができませんので、十分ご留意ください。
(添付書類)
- 戸籍の謄本
- 住宅の契約書の写し及び登記事項証明書
贈与税申告書提出時点では、贈与取得資金すべてを使い切っておく必要があります。使いきれない場合は贈与税の課税対象となりますので、注意しましょう。
4.住宅ローン控除との関係は?
住宅取得資金贈与の制度と、住宅ローン控除の併用は可能です。ただし、住宅ローン残高によって、住宅ローン控除の対象となる金額が減少する場合があるため、注意が必要です。
具体的には、住宅ローン金額と、下記を比較して低い方の金額が、住宅ローン控除の対象額となります。
住宅購入金額-贈与を受けた金額
(1)減少しないケース
(例)住宅取得資金贈与500万円、ローン2,500万、3,000万の住宅を購入
⇒住宅ローン控除の対象となる金額は3,000万-500万=2,500万となります。
この場合は、住宅ローン残高2,500万円全額につき、住宅ローン控除可能です。
(2)減少するケース
(例)住宅取得資金贈与500万円、ローン3,000万、3,000万の住宅を購入
⇒住宅ローン控除の対象となる金額は、3,000万-500万=2,500万となります。
この場合は、住宅ローン残高は3,000万に対し、住宅ローン控除の対象となる金額は2,500万円となります。
(3)暦年贈与非課税枠110万円との関係は?
住宅取得資金の贈与税非課税枠、住宅ローン控除は、どちらも暦年贈与の非課税110万との併用は可能です。
例えば、暦年贈与を活用して、住宅資金贈与非課税資金額を調整すれば、住宅ローン控除の額を減らさず有効に使える場合があります。
5.7年内生前贈与加算・暦年贈与との関係
住宅取得等資金贈与の非課税制度は、また、たとえ相続開始前7年以内のものであっても「相続開始前7年以内の生前贈与加算」の対象になりません(令和5年12月末までは「3年内」)。
つまり、住宅取得資金の贈与を使えば、「相続直前に贈与して相続財産を減らす」ことも可能となります。
一方で、暦年贈与(110万/年)については、「7年内生前贈与加算」の対象となります。
したがって、まずは、住宅取得等資金贈与の非課税制度を優先し、そのうえで暦年贈与を利用する形が良いかなと思います。
メリット | デメリット |
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6.共有名義の場合は?
例えば、夫婦共有名義で物件を購入する場合も、「住宅取得資金贈与の非課税枠」は利用可能です。
住宅取得資金贈与の非課税枠は、受贈者1人あたりの限度額となりますので・・
実は、夫婦共有で物件を取得すると、非課税の限度枠を2人それぞれで使えます。
つまり・・単独名義で物件を購入する場合と比較して「非課税限度額は2倍」になります。
ただし、あくまで、共有持分割合は、住宅購入資金負担割合での登記が必要です。また、住宅ローンの返済もそれぞれ支払する必要があります。購入後に夫が妻の分の住宅ローン返済を行うと・・贈与とみなされ課税される可能性があります。
7.参照URL
(直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm
(措置法第70条の2関係)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sozoku/091127/70_2.htm
(住宅取得等資金の贈与と住宅借入金等特別控除との関係)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/17/08.htm
(居住の用に供したとき等)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sozoku/sochiho/080708/70_3/04.htm#a-2-2