例えば、父が死亡し(一次相続)、相続手続完了前に母が亡くなってしまう(二次相続)ように、相続が重なるケースは「数次相続」と呼ばれています。
「数次相続」の状態では、場合によっては二次相続の手続を進めていく中で、一次相続の発生を知るケースもあり、一次相続の相続放棄をしたいにもかかわらず、「相続放棄」期限の3か月を超えているケースもあります。
こういった状況は「再転相続」と呼ばれます。
今回は、「再転相続」の状況で、相続放棄が認められるのか?相続放棄の「熟慮期間」の起算点は?という論点です。
目次
1.再転相続とは?数次相続との違い
(1)再転相続とは?
「相続手続完了前」に、さらに相続が重なる状態は、「数次相続」と呼ばれます。数次相続の場合、二次相続の相続人は、一次相続人が有していた「一次相続権」と、「二次相続」により自分が保有する「二次相続権」を併せ持つ立場となります。
一方、「再転相続」は、数次相続とは似ていますが、「相続放棄」が絡む状況の場合を指します。
再転相続とは、「数次相続」の状況で、一次相続の相続人が、相続承認or相続放棄の選択につき、熟慮期間中に意思表示しないまま亡くなる状況をいいます。熟慮期間は、相続開始を知った日から3カ月となり、相続人は熟慮期間中に相続を承認するか、放棄するかを選択します。再転相続の場合の相続人(二次相続の相続人)は「再転相続人」と呼ばれます。
(2)再転相続の相続放棄期間
再転相続の場合でも、「再転相続人」の相続放棄は「熟慮期間内」に行う必要があります。
ただし、「再転相続」の状況では、場合によっては二次相続の手続を進めていく中で、一次相続の発生を知るケースもあり、一次相続の相続放棄をしたいにもかかわらず、「相続放棄」期限の3か月を超えているケースもあります。
そこで、再転相続の場合の「熟慮期間」の起算点が問題になります。
この点については、民法上、再転相続時における相続放棄の熟慮期間の起算点につき、規定されています(民916条)。
【民法第916条】
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項(第915条第1項)の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
条文上は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、条文上は、「二次相続の相続人になったことを知った日」から3か月間と読み取れます。
ただし、最高裁判例(2019年8月)では、以下のように解釈しています。
【最高裁判例要約】
一次相続の相続を承認または放棄できる地位を再転相続人自身が承継した事実を知った時。
例えば、二次相続の相続人になったことは知っていたが、「一次相続の相続人としての地位を、自身が承継したことを知らない場合」は、相続放棄の熟慮期間は・・まだ始まっていないことになります。
2.一方の相続のみ相続放棄できるか?
再転相続の場合、再転相続人は、一次・二次相続の両方とも、相続承認あるいは相続放棄の選択をする必要があります。
パターンとしては、以下の4つが考えられます。
一次相続 | 二次相続 | |
---|---|---|
① | 承認 | 承認 |
② | 承認 | 放棄 |
③ | 放棄 | 承認 |
④ | 放棄 | 放棄 |
上記のうち、②だけは認められません。
相続放棄を行うと、最初から相続人ではなかったものとみなされるためです。
つまり、二次相続を放棄した時点で、最初から相続人ではなくなるため、一次相続で本来一次相続人が保有していた「相続権」を引き継ぐ権利を放棄したことになります。
したがって、二次相続を放棄した時点で、一次相続を承認することはできなくなりますので、ご留意ください。
3.具体例
(1)具体例
- 「莫大な借金」があった、祖父が死亡した。祖父には莫大な借金がある。
- 父は、祖父の借金につき「相続放棄」をする予定だったが、相続放棄手続未了のまま、祖父死亡直後に死亡した。
- 父には「財産」があるため、子は、父の財産は相続したいが、祖父の借金は相続したくない。
- 子は、祖父の相続放棄を行った上、父の「財産」を相続することはできるか?
(2)結論
数次相続の場合、二次相続の相続人(子)は、父が保有していた「一次相続権」と自分が保有する「二次相続権」を併せ持つ立場となります。子は、それぞれの相続(一次及び二次相続)につき、「相続放棄」と「相続の承認」が可能です。
したがって、お子様は、相続放棄・承認の熟考期間内であれば、一次相続のみを「相続放棄」し、父の二次相続だけを「承認」することは可能です。
4.ご参考~代襲相続と数次相続の違い
「代襲相続」とは、被相続人が亡くなった時点で、本来相続人になるはずだった人が既に亡くなっている場合に、その本来相続人になるはずだった人の子や孫などが、本来の相続人に代わって相続人になる制度です。
一方、「数次相続」とは、被相続人が亡くなった時点では相続人は生きていたが、「当初相続発生後、遺産分割協議確定前」に、相続人が亡くなってしまった場合、当該相続人の「法定相続人」が権利を受け継ぐことをいいます。
両制度の違いは、「相続人の死亡時期」が、被相続人より前か?後か?という点になります。